打ち直しと、突き合わせ。
卸売・商社の一日を埋めているのは、その二つかもしれません

FAX、メール、電話、EDI、それに手書きの依頼書。入り口がばらばらな受注を、今日も誰かが基幹システムへ打ち直している。 月末には、書式の違う請求書と自社のデータを並べて目で追う。 僕がまず見るのは、その作業の速さではなく、どこが流れを止めているかのほうです。

✓ 基幹システムには触りません ✓ 全部をAIにはしません ✓ 一つの業務から小さく確かめます

それは、現場の能力の話ではないかもしれません

欠品を出せば、責任は発注のご担当者にはっきり返ってきます。けれど死蔵在庫のほうは、誰の責任にもなりません。 この非対称のもとでは、「厚く持っておく」は、担当者にとって唯一の合理的な行動になります。

責任が、片側にしか返らない

在庫日数が何年も落ちないのは、腕のせいではないように見えます。 詰まっているのは、情報と責任の置き方の設計のほうです。 判断に必要な材料を持っていない人に判断の責任だけが移ると、リスクを避ける動きが正解になります。

情報が、押し出されてこない

「共有フォルダに入れておきましたからね」——その一言を、言い忘れる。 送りつけられないと、見るのを忘れる。これは注意力の話ではなく、届き方の設計の話だと思っています。 置いた側の善意に依存している限り、同じことが起き続けます。

卸売・商社でよくお見かけする、六つの滞り

最初に問うべきは「どこにAIを入れるか」ではなく、「どのタスクが全体の流れを止めているか」です。

受注の入り口が、四つある

FAX、メール、電話、EDI、それに製造からの手書きの依頼書。入り口ごとに書式が違い、 結局は全件を人が基幹へ打ち直しています。品番の読み違いと数量の桁違いを抱えたまま、一日が始まります。

月末は、確認より原因究明で溶ける

書式の違う請求書を印刷して、自社のデータと並べて目で追う。合っている確認は軽いのです。 重いのは、ずれの理由を追いかける数件のほう。取引先数と品目数が多いほど、そこに時間が集まります。

提案の主語が、自社になっていない

メーカー同行が商談の中心になると、提案は単品の話になります。すると帳合が変わった瞬間に、 積み上げてきた提案が資産として残りません。カテゴリーを横断したミックスの提案が、なかなか組めない。

特売の数量判断が、一人に寄る

「チラシがあるよ」の一言で、数量の判断だけが発注担当へ移ります。根拠になる情報は、いっしょには来ない。 切らさないために厚く押さえる——それ以外の選択肢が、その人には残っていません。

解除は手作業、勧告は自動

押さえた在庫の解除は手で消すから、忘れます。そこへ発注勧告が、また同じ量を自動で積む。 移動平均で数量を決めているぶん、一度の特売の誤差を、そのあとずっと引きずります。

用語も業務フローも、更新が止まっている

用語集は昔つくったまま。業務フローチャートも、作ったきり更新されていない。 「帳合」の意味を新人に教える人が社内にいない、という状態は、思っているより広く起きています。

六つのうち、いま一番重いのはどれでしょうか。 四つの滞りをもう少し丁寧に書いた記事もあります。

事故は、三つの穴が直列につながったときにだけ起きる

廃盤になった商品が、そのまま発注されてしまう。原因を辿ると、たいてい同じ形をしています。 ①知っている人がいる(営業・商品部) ②止める仕組みがある(廃盤フラグ・発注停止) ③発注担当がいる。この三つが一直線に並んだときにだけ、事故になります。

救いは、一つ塞げば止まること

三つ全部を直さなくても大丈夫です。どれか一つを塞げば、事故は止まります。 全社の仕組みを入れ替える話ではなく、直列のどこに札を挟むかという話になります。 だから、小さく始めて効くのです。

異常値が出たら、まず元のデータを疑う

前年比が跳ね上がるような値が出たとき、原因はたいてい道具ではなく元のデータのほうにあります。 税抜と税込の混在、単位の取り違え、マスターの重複登録。 導入の過程そのものが、長年気づかれずにいた不備の検出器になります。これは遠回りではなく収穫です。

複数の小売を横断して見渡せるのは、御社だけです

メーカーからは自社の商品しか見えません。小売からは自社の売上しか見えません。 仕入と販売の両方に立っている問屋だけが、複数の小売を横断して 「どのカテゴリーに粗利の穴が空いているか」を見渡せます。これは規模では買えない位置です。

商社の価値も、同じ形をしていると思っています。一個口でも買える、この包装で買える—— メーカーの製品を、お客様の都合に合わせて編集し直す機能。 どちらも、持っている情報をどう使うかの話に行き着きます。

目指すのは、作業を消すことではなく、決めやすくすること

○か×かで、同時に見渡せる

全件を目で追う仕事から、ずれた数件だけを判断する仕事へ。見る量ではなく、見る対象のほうが変わります。 照合という業務そのものは残りますが、中身が入れ替わります。

数量の根拠が、決める前に届く

「切らさないために厚く」を選ばずに済む材料を、判断する人の側へ置きます。 取りに行かせるのではなく、押し出す。ここが変わると、担当者の判断の質が変わります。

一日が、埋まって終わらない

「気づいたら一日が終わっていた」を減らします。空いた時間は、得意先と向き合う時間に戻ります。 人にしかできないことに、人が戻れる状態をつくります。

却下されたことも、記録になる

通らなかった提案も、理由まで残れば次の材料になります。 何を残せば蓄積に変わるのかを、動かす前に決めておきます。ここを決めずに数だけ増やすと、記録が資産になりません。

順番はいつも同じです——分解、滞りの特定、割り当て、○×の可視化

業務を分解する

誰が・何を・どの順番で・どれくらい。入力/処理/出力/待機に分けて書き出します。

滞りを一つに絞る

探すのは時間の長いタスクではなく、後続を待たせているタスクのほうです。

関数・RPA・AIを割り当てる

突き合わせと計算は関数。転記はRPA。下書きと柔軟な判断はAI。最終判断は人。

○×を可視化する

判断が要る行だけが残る形にして、決める方の目の前へ置きます。

最初に問うのは、どこにAIを入れるかではありません

問うのは、どのタスクが循環を止めているか。 敵は、手段から入るという導入の順番のほうです。 詰まりを特定する前に道具を選ぶと、流れていない場所に高価なポンプを置くことになります。

決めるのは、四つだけ

①何が起きたら走り出すか(起点) ②答えの根拠はどこにあるか(事実) ③誰の言葉・どの体裁で出すか(作法) ④どこに置き、誰が最終OKを出すか(着地)。 ①と④は必ず決めます。②③は要るときだけ挿します。

線を引く場所も、最初に決めます

得意先への送信、価格と数量の確定、社外への公開、人の評価に関わること。 この四つは自動にしません。下書きまでを機械が、最後の一押しを人が担います。

全件をAIで照合する案は、検証したうえで見送ることがあります。 読み取った結果をもう一度人が確かめる、二度手間が生まれるからです。 「ここにAIは要らない」と分かることは、損失ではなく蓄積だと考えています。 答えが一つに決まる突き合わせでは、揺らがない関数のほうが勝ちます。

一度組んだ型は、業務が変わっても使い回せます

請求書の照合。配送前のさばき。価格改定の確認。並べてみると、どれも同じ形をしています—— 二つの情報を突き合わせて、○か×かを出す。

この「目視照合」の型を一度きちんと組んでおくと、次の業務は作り直しではなく、型の入れ替えで済みます。 二本目以降が速いのは、器用だからではなく、同じ型を使い回しているからです。 だから最初の一本に、少しだけ時間をかけます。

よくいただく懸念に、先にお答えします

基幹システムには触ってほしくないのですが。

触りません。基幹には長年の商習慣と取引条件が染み込んでいます。入れ替える対象ではなく、前提として扱います。手を入れるのは基幹へ入れる前と、出したあと——これまで人が手で埋めていた「間」だけです。合わなければ、元の運用にそのまま戻せます。

現場が使ってくれるとは思えません。

新しい画面を覚えていただく前提では設計しません。いまの入り口(メール、共有フォルダ、使い慣れた帳票)はそのままに、必要な情報が向こうから届く形へ変えます。「入れておきましたからね」と言い忘れても回る、押し出す側の設計にします。

効果が読めないので、稟議に書けません。

だから最初の一手を小さくします。対象を一業務に絞り、いまその作業に何人が何分かけているかを先に測ります。手元の数字が変わったかどうかで判断できる状態を作ってから、隣へ広げます。実測から出た数字と、そこから立てた仮説は、混ぜずに分けて書きます。

うちは業務が特殊で、他社の事例が当てはまらないと思います。

たぶん当てはまりません。だから事例を移植する進め方はしません。やるのは、御社の業務を分解して、どこが流れを止めているかを見ることです。特殊なのは業務の中身のほうで、滞りの形のほうは驚くほど似ています。

情報システムの担当者がいません。

いない前提で設計します。経営者の方と現場の方と一緒に、業務を書き出すところから入ります。専門用語は最小限にして、「誰が・いつ・何を確認するか」が読める形でお渡しします。動き出したあとも、しばらく隣にいます。

前に一度AIを入れてみて、何も変わりませんでした。

その経験は無駄になっていません。「この業務にAIは効かない」と分かっているなら、それは地図の一部です。もう一度やるとしたら、変えるのは順番だけだと思います。道具を選ぶ前に、どのタスクが循環を止めているかを先に決めます。

最初の30分で、持ち帰れるものを一つ作ります

お願いするのは、契約のご判断ではありません。 いま一番重い滞りがどこにあるかを、一緒に言葉にする時間です。

その場でお渡しするもの

  • 業務の分解図(入力/処理/出力/待機)
  • 滞りの候補と、着手するならどれからかの順番
  • 関数・RPA・AI・人の割り当て案(「ここはAIにしない」も書きます)
  • 自動化しない線をどこに引くか

社内で回覧・複製いただいて構いません。 消えてしまう資料は、稟議の起点になりませんから。

代表が直接、業務の分解から入ります。そのため同時にお受けできる社数には限りがあります。 費用の考え方はこちら、進め方の詳細はこちらにまとめています。

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「何を頼むか決まっていない」段階で大丈夫です。 受発注、請求書照合、在庫と特売、提案の組み立て—— どれが一番重いかを仕分けするところから始めます。

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