← AIの基礎知識

コンテキストエンジニアリングとは——AIに渡す情報のほうを設計する

公開: 2026年9月8日 4分で読めます(約2,094文字) 執筆: 北村 惇士(プロフィール)

ひとことで言うと

AIに渡す情報——業務の前提・判断基準・社内の言葉・参照する原本——を整えて置いておく設計。頼み方と違い、一度作れば直すまで効き続けます。

社内でAIを使っている人が何人か出てきた。それなりに便利だという声もある。それでも会社としては何も変わっていない——この状態で相談に来られる会社が、いちばん多いところです。

打ち手は、たいてい頼み方の先にあります。

設計する対象が違う

プロンプトエンジニアリングが設計するのは、指示の文です。コンテキストエンジニアリングが設計するのは、渡す情報のほうです。

同じことのように見えて、性質がまるで違います。

プロンプトコンテキスト
設計する対象指示の文渡す情報
効く範囲その一回だけ直すまでずっと
引き継げるか引き継げない引き継げる
担当者が休んだら止まる止まらない
書ける人使う本人業務を分かっている人

「担当者が休んだら」の行が、経営から見たときのいちばんの違いです。個人の工夫は、その人と一緒に出勤し、その人と一緒に帰ります。置いてある情報は、誰が使っても効きます。

子育ての現場でいうと

四人いると、同じ言い方は通用しません。

上の子は理由を先に言えば動く。下の子は理由より順番を見せたほうが早い。この子はお腹が空くと何も聞こえなくなる。この時間帯は塾のあとで集中が切れている。

こういうことは、一緒にいれば分かります。問題は、分かっている人が一人しかいないときです。妻が出かけている日に、こちらが同じようにできない。

だから、書きました。冷蔵庫と、共有のメモに。この子はこう、この時間はこう、これだけは触れない。腕の差ではなく、書いてあるかどうかで差が付く。

コンテキストエンジニアリングは、これをAIに対してやる作業です。社内の呼び方、判断の分かれ目、触れてはいけないこと、参照すべき原本。書き出せた会社は、担当者が休んでも止まりません。そして、このメモは人の新人にもそのまま使えます。

何を書き出すのか

抽象的に聞こえるので、実際に整えているものを挙げます。

社内の言葉。略称、社内でしか通じない呼び方、同じものの別名。「A案件」「例の件」が何を指すか。用語集は地味ですが、いちばん早く効きます。

判断の分かれ目。この条件ならこうする、という基準。「この取引先だけ締め日が違う」「この金額を超えたら上長に回す」。ベテランが当たり前にやっている判断ほど、書かれていません。

やってはいけないこと。社外に出せない情報、過去にうまくいかなかった進め方、触れてはいけない話題。禁止事項は、書かれていないと必ず踏みます。

参照する原本。最新版がどれか。どの資料を見て答えるべきか。版が複数あって人間にも分からない状態だと、AIは平然と古いほうを引きます。

望ましい形。報告書の構成、メールの温度感、社外に出す文書の言い回し。過去の良い実例を数点置いておくのが、説明を書き足すより速く伝わります。

この五つを書き出す作業は、AIのためというより、社内の知識を人の頭から出す作業です。だから、AIの世代が変わっても無駄になりません。

「置いておく」形にする

書き出したものを、どこに置くかで効き方が変わります。

会話の中で毎回伝えるやり方は、伝えた回だけ効いて消えます。コンテキストウィンドウから外れれば、その会話の中でも効かなくなります。

効かせ続けるには、入り口で必ず渡される場所に置きます。決まった指示として仕込むならシステムプロンプト、文書が多くて全部は渡せないなら質問のたびに検索して渡すRAG。仕組みは違いますが、狙いは同じです。人の記憶と善意に依存させないということに尽きます。

完璧を目指さないほうが進む

全社の知識を体系的に整理してから始めよう、と考えると、まず動きません。量が膨大で、着手できないまま年が変わります。

現場で回っているのは、この進め方です。

  1. 業務をひとつ選ぶ。質問が集中している業務、あるいは属人化している業務
  2. その業務ぶんだけ書き出す。A4で数枚に収まる量から始める
  3. 使ってみて、答えられなかったことを記録する。ここが材料になる
  4. 記録を見て書き足す。週に一度、数分でいい

3と4を回すのが要点です。最初から完璧な文書を用意しようとするより、答えられなかった記録から埋めていくほうが、実際に使われる形に育ちます。

そして、これは一度やって終わりの作業ではありません。判断基準は変わりますし、新しい例外も出てきます。育て続ける対象として、担当と頻度を決めておくと止まりません。

段階の全体像は、プロンプトエンジニアリングの次に来たもので四段階として整理しています。自社がどこにいるかを測るときの地図としてお使いください。

顧問先によく聞かれること

プロンプトエンジニアリングとどちらを先にやるべきですか。
順番としてはプロンプトが先です。ただし、そこで止まらないことが要点になります。個人が試して手応えを得た段階で、うまくいった指示に含まれていた社内事情を外に書き出す。この移し替えがコンテキストの整備にあたります。
誰が書くのが適任ですか。
その業務を分かっている人です。情報システム部門ではなく、実際にその判断をしている担当者が書いたものがいちばん効きます。文章力は要りません。判断の分かれ目を、条件と結果の形で書き出せれば十分です。

出典(一次情報)

  1. Context windows(コンテキストウィンドウ) Anthropic / Claude Docs

解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。

本ページの内容は公開時点の一般的な整理です。AIサービスの仕様・料金・データの取り扱いは 提供各社が随時変更するため、契約・設定の判断は必ず各公式サイト(一次情報)と自社の契約条件をご確認ください。 自社実績に言及する場合は社内集計値であり、事例は守秘義務に基づき抽象化したモデルケースを含みます。