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プロンプトエンジニアリングの次に来たもの――コンテキスト・グラフ・ハーネスの4段階

公開: 2026年9月9日 7分で読めます(約3,976文字) 執筆: 北村 惇士(プロフィール)

「プロンプトの書き方研修をやったのに、3か月後には誰も使っていない」

AI導入の現場で、これに近い相談を何度も受けてきました。研修の内容が悪かったわけでも、社員のやる気が足りないわけでもありません。手をつけた段階が、その会社の課題と合っていなかったというだけです。

社内のAI活用には、はっきりと段階があります。世の中では「プロンプトエンジニアリング」という言葉が先に広まりましたが、その先に3つの段階が続いています。ここでは4つを並べて、自社が今どこにいるかを測るための地図として整理します。


4つのエンジニアリング

図1|4つのエンジニアリングの比較
4つのエンジニアリングの比較①プロンプト②コンテキスト③グラフ④ハーネス設計する対象指示の文渡す情報情報同士の関係AIが働く環境人でいうと頼み方を工夫する手引きを渡して置く社内の地図を渡す席・道具・権限を用意する効く範囲その1回だけ直すまでずっと直すまでずっと直すまでずっと引き継げるか引き継げない引き継げる引き継げる引き継げる担当者が休んだら止まる止まらない止まらない止まらない誰が書けるか使う本人業務を分かっている人業務と仕組みの両方仕組み側

出典: 自社作成

言葉は違いますが、4つとも「AIに良い仕事をさせるための設計」を指しています。違うのは設計する対象です。

新人に仕事を任せる場面に置き換えると、区別がつきやすくなります。

4つは置き換わっていくものではありません。下から積み上がるものです。②は①を含み、④は①②③を含みます。


①プロンプトエンジニアリング ― なぜ定着しないのか

指示の文をどう書き、どう組み立てるかの設計です。「あれを整理して」ではなく「9月の受注データを、拠点別・商品別に並べて」と書き直す。ここまでは多くの会社が到達しています。

この段階の性質は、効果がその1回で終わることです。

うまい頼み方は、書いた人の頭の中にしか残りません。隣の席の人には移りませんし、その人が異動すれば消えます。研修で配ったテンプレートが3か月で使われなくなるのは、意欲の差ではなく、個人の工夫は個人と一緒に消えるからです。

もう一つの限界があります。渡している情報のほうが乱れていると、どれだけ丁寧に頼んでも答えは乱れます。答えの上限を決めているのは、頼み方ではなく情報のほうです。

税抜と税込が混ざった売上データを渡せば、前年比の数字は現実とかけ離れます。このときAIは間違えていません。渡した情報のほうが乱れていて、AIがそれを映し出したというだけです。


②コンテキストエンジニアリング ― 情報のほうを直す

AIが答えを作るその瞬間に、手元に何を載せておくかを選び、保つための設計です。指示文だけでなく、参照する社内データ、過去のやり取り、使える道具まで、AIの視野に入るもの全体を扱います。開発元のAnthropicは、これを「推論時に最適な情報の集合を選び、維持する戦略」と定義しています(出典: https://www.anthropic.com/engineering/effective-context-engineering-for-ai-agents )。

実務でやることは、大掛かりではありません。担当業務について、次の3つを書き出すところから始まります。

1. 言葉 ― 社内で呼び方が割れているものの対応表。「うちで言う”出荷済み”は、拠点の帳票では”引当済み”と同じ」。名前を統一する作業ではなく、同じものだと分かる紙を1枚作る作業です。

2. 原本 ― どのファイルが正本か。同じ名前のExcelが3つある状態では、AIはどれを信じるか決められません。人間も決められていないからです。

3. 基準 ― 判断の線。「この数字を超えたら発注する」「この条件なら確認を飛ばす」。多くの場合、これはどこにも書かれておらず、担当者の経験の中にあります。

この3つは、業務を分かっている人にしか書けません。外部のコンサルにも情シスにも書けない部分で、だからこそ書いた時点で他社が真似できない資産になります。

そして①との決定的な違いは、一度置けば、直すまでずっと効き続けることです。書いた本人が休んでも止まりません。チーム全員とAIが同時に使えます。業務の棚卸しで滞りを洗い出したあと、実際に手を動かすのはここです。


③グラフエンジニアリング ― 部署をまたぐ問いで止まる理由

情報を「もの」と「関係」の形で持たせる設計です。商品・取引先・拠点・案件といったものを点として置き、「この商品はこの拠点にある」「この報告書はこの台帳から作られた」という関係を線で結びます。技術的にはナレッジグラフやGraphRAGと呼ばれる領域です(解説: https://www.meilisearch.com/blog/graph-rag )。

なぜこれが要るのか。②まで整えた会社で、次に出てくる詰まりがこれだからです。

1つの棚の中で完結する問いには、②まででも答えが返ります。2つ3つの棚をまたぐ問いで止まるのがこの段階の課題です。そして現場で本当に知りたいことは、たいていまたいでいます。

意外に思われますが、②で作る「言葉の対応表」が、そのまま③の入口です。「AはBと同じもの」という一行が、最初の1本の線になります。繋がりは、まとめて作るものではなく、業務の中で1本ずつ増やしていくものです。


④ハーネスエンジニアリング ― 器と権限と確認

ハーネスは馬具や安全帯を指す言葉です。力のあるものに装着して、正しい向きに働かせるための装置という意味で使われています。

AIの周りを固める仕組み全体の設計を指します。具体的には次の4つです。

「エージェント」と呼ばれているものの中身は、ほぼこれです。モデルそのものより、周りの器の作り込みが結果を左右するという理解が、この数年で定着しました(参考: https://www.databricks.com/blog/ai-harness )。

ここが最後に来るのには理由があります。中身が無いまま器だけ作ると、空の器になるからです。②で書いた1枚が、この器に入れる中身になります。CopilotとAIエージェントの違いで書いた「条件を満たしたら自分で動く」仕組みは、④まで到達して初めて成立します。


順番を飛ばすと戻ってくる

図2|社内AI活用を積み上げる順番
社内AI活用を積み上げる順番1①プロンプト頼み方を整える。ここは個人の工夫として通過する段階で、ここで止まると定着しない2②コンテキスト業務の言葉・原本・判断基準を書き出し、AIから見える場所に置く3③グラフ台帳と資料と担当の対応を線で繋ぎ、部署をまたぐ問いに答えられるようにする4④ハーネス知識源を固定した器を作り、権限と確認の手順を決めて仕組みとして残す

出典: 自社作成

相談を受けて最も多いのが、①から④へ飛ぶパターンです。プロンプト研修の次に、いきなりエージェント構築の話になる。器は組み上がるものの、中に入れる業務知識が無いため、汎用的な答えしか返らず使われなくなります。

逆に、②を飛ばして③に行こうとするケースもあります。言葉が揃っていないうちに情報を繋ぐと、間違った線が引かれます。「出荷済み」と「引当済み」が別物として繋がれば、繋がるほど答えは濁ります。

順番には理由があります。

②が全部の土台です。そして②は、道具を買っても手に入りません。業務を分かっている人が書くしかない部分だからです。


自社の現在地を測る

どの段階にいるかは、次の質問で見分けられます。

①で止まっているサイン

②に手をつけるべきサイン

③が視野に入るサイン

④に進めるサイン

ほとんどの会社が①と②の間にいます。そこから②へ一段上がるだけで、AI活用は「使える人の技」から「会社の状態」に変わります。


判断のよりどころ

4つの段階を一言で並べると、こうなります。

頼み方を工夫するのが①。説明しなくても伝わる状態をつくるのが②。情報同士を繋ぐのが③。仕組みとして残すのが④。

見分け方はもう一つあります。その工夫は、担当者が休んでも残るか。残らないなら①、残るなら②以降です。

社内AIが定着しない会社の多くは、②を飛ばしています。そして②は、外注できない代わりに、新しいツールを1つも増やさずに始められます。増えるのは、手元に残る紙のほうです。

自社がどの段階にいるか、どこから手をつけるかの整理は、進め方と無料AI診断で業務ごとに分解しています。

本記事の内容は公開時点の情報に基づきます。自社実績に言及する場合は社内集計値であり、 事例は守秘義務に基づき業種・数値を抽象化したモデルケースを含みます。 製品仕様・料金は必ず各公式サイト(一次情報)をご確認ください。

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