入力した情報はAIの学習に使われるのか——確認すべき場所と、社内ルールの決め方
入力内容が今後の学習に使われるかどうかは、仕組みではなく契約と設定で決まります。個人向けと法人向けで扱いが違うことが多く、各社の公式な条件を確認して判断します。
社内でAIの話が進むと、必ずここで止まります。「入れた情報が学習に使われるのではないか」。
止まること自体は健全です。ただ、確認する場所が分からないまま「とりあえず禁止」で終わっている会社が多く、そのぶん動ける範囲まで止まっています。
仕組みの話と、契約の話を分ける
まず、混ざりやすい二つを分けます。
仕組みとして、あなたが入力した内容が、その場でモデルの中に取り込まれるわけではありません。入力は回答を作るために使われて、処理としては終わります。モデルを作る工程(学習)と使う工程(推論)は別物で、日々の利用はすべて後者です(学習と推論)。
契約として、入力された内容を今後のモデル改善に使うかどうかは、提供する側が定めています。ここは技術ではなく取り決めの話です。
「AIに入れたら学習される」という言い方が広まっているのは、この二つが混ざっているためです。実際に確認すべきなのは後者、契約のほうです。
子育ての現場でいうと
園や学校には、子どものことをずいぶん預けています。アレルギー、既往、家庭の事情。その目的のために渡したものであって、他所で使ってよいと言った覚えはありません。
そして、どう扱われるかは技術では決まりません。その施設の決まりで決まります。 写真をお便りに載せてよいか、名前を出してよいか、卒園後にどうするか。入園のときに書類で確認したはずです。
AIサービスに入力するデータも、まったく同じ構図です。中に取り込まれる仕組みかどうかより、取り決めとしてどう扱われるかを見る。
国の側もここを名指ししています。個人情報を含む入力について、注意喚起はこう書いています。
このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。
(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」令和5年6月2日・別添1)
確認すること、と書いてあります。つまり、確認できる場所が公開されているという前提です。使うサービスを一つに決めて、その一つの条件を確かめておく。入園書類を読むのと、変わりません。
どこを見れば分かるか
サービスによって呼び方は違いますが、見る場所はだいたい決まっています。
- 利用規約と、データの取り扱いに関するページ。「入力内容を学習に利用するか」が書かれています。個人向けと法人向けで別ページになっていることがあります
- 管理画面の設定。学習利用のオン・オフを切り替えられるサービスがあります。既定値がどちらかは、サービスによって違います
- 契約書・注文書の条項。法人契約では、規約とは別に取り決めがある場合があります
- 保存期間。学習に使わない場合でも、不正利用の監視などのために一定期間保存されることがあります。ここは学習利用とは別の項目です
各社とも条件を改定するため、「以前確認したから大丈夫」は当てになりません。社内展開の前と、契約更新のタイミングで見直す運用にしておくと安心です。当社でも、顧問先には確認した日付を記録に残してもらっています。
禁止一辺倒にすると、何が起きるか
情報の扱いが分からないうちは全面禁止にする、という判断は理解できます。ただ、そのまま置いておくと二つのことが起きます。
現場が個人の端末で使い始める。仕事が速くなる道具を、人は結局使います。会社が把握していない場所で、規約も確認されないまま使われる。これがいちばん危ない状態です。
判断できる人が育たない。禁止している間、社内には経験が溜まりません。競合が使い方を身につけている間、差が開きます。
現実的なのは、全面禁止でも全面自由でもなく、入れてよい情報の線を引くことです。
線の引き方
顧問先には、この三段階で決めてもらっています。
入れてよい——社外に出しても差し支えない情報。一般的な相談、公開資料、自分で書いた文章の推敲、社内の言い回しの相談。
伏せれば入れてよい——固有名詞を置き換えれば成り立つ相談。「A社の案件で」と書けば、判断の相談は成立します。ここを許すかどうかで、使える範囲がかなり変わります。
入れない——個人情報、顧客から預かった資料、未公開の経営情報、契約で持ち出しを禁じられているもの。ここは、契約条件が良くても入れない、という線を先に引いておきます。
そのうえで、どのサービスを使うかを揃えます。各自が好きなサービスを使う状態では、条件の確認が追いつきません。会社として使うものを決めて、そこは条件を確認済みにしておく。ここまでやると、現場は迷わずに動けます。
社内システムとつなぐ段階では、見せる範囲そのものを絞る設計も入ってきます(MCP)。ルールで守るものと、構造で守るものを分けて置くのが、続く運用の作り方です。
顧問先によく聞かれること
- 結局、顧客名を入れてよいのですか。
- 契約条件と、自社が顧客と交わした取り決めの両方で決まるため、一律の答えはありません。判断がつくまでの当座の運用としては、固有名詞を伏せて相談する形が現実的です。「A社」と置き換えても、AIからの回答の質はほとんど落ちません。
- 無料版と有料版で違いますか。
- 違うことが多く、そこが見落とされがちなところです。個人向けの無料プランと法人向けの契約では、入力データの扱いが別に定められている場合があります。社内展開の前に、使おうとしているプランの条件を確認してください。
出典(一次情報)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日) 個人情報保護委員会
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。