AIの精度をどう確かめるか——「なんとなく良い」を判断材料にしない
AIの出力が使えるかどうかを、感触ではなく事前に用意した正解と突き合わせて確かめる工程。導入の可否と、運用中のずれの検知の両方に要ります。
試してみたら思ったより使えた。現場の評判も悪くない。だから本格導入しよう——ここで一度止まって確かめておくと、後の議論が楽になります。
感触は当てになりません。うまくいった数件が記憶に残り、外した数件は忘れられるためです。
正解を先に用意する
やることは、そう複雑ではありません。先に正解を作っておいて、AIの出力と突き合わせる。それだけです。
順番が大事で、AIに出させてから「これは合っている」と判定すると、出力に引きずられます。先に人が答えを用意しておくと、この引きずりが起きません。
- 実際の業務から、事例を数十件選ぶ
- その一件ずつに、担当者が「こうあってほしい」という答えを書く
- 同じ入力をAIに渡して、出力を並べる
- 一致・惜しい・外れの三つに分ける
三つに分けるのは、外れの中身を見るためです。件数だけ数えると、直す方向が見えません。
習い事の現場でいうと
「うまくなった気がする」は、当てになりません。
横で見ていると、そう思えます。前より手が止まらない、姿勢が良くなった。ところが進級テストでは、去年と同じところで落ちる。見ている側の目は、慣れとともに甘くなります。
スイミングに級があるのは、そのためだと思っています。同じ距離を、同じ形で、決まった基準で見る。親の感触ではなく、外の物差しで測るから、伸びたかどうかが分かる。
AIの精度も同じです。使っている人の「悪くない」は、三か月経つと基準がずれています。導入して半年後に「そういえば最近おかしい」と気づくのは、目が先に慣れたからです。
だから、動かない基準を先に置く。測るのは、疑っているからではなく、慣れるからです。
何を「正解」とするか
ここが、いちばん考えどころです。仕事の種類で、見るところが変わります。
| 仕事 | 見るところ |
|---|---|
| 分類・振り分け | 正しい区分に入ったか。取りこぼしと、拾いすぎの両方 |
| 要約 | 落としてはいけない項目が残っているか |
| 文案の作成 | そのまま出せるか、直せば出せるか、書き直しか |
| 情報の抽出 | 抜けがないか。存在しない値を作っていないか |
| 判断の下支え | 根拠として挙げた資料が実在し、該当箇所が合っているか |
要約と文案は、唯一の正解が決まりません。この場合は、担当者の手直しがどれだけ要るかを物差しにします。そのまま出せた/少し直した/書き直した、の三段階で数えると、比較できる形になります。
情報の抽出では、抜けよりもハルシネーションのほうを重く見ます。空欄は気づけますが、それらしい値が入っていると見逃されるためです。
外れの中身を分ける
外れた件を、原因で分けます。打ち手がまったく違うためです。
渡した情報が足りなかった——判断基準が書かれていない、参照すべき資料が渡っていない。これは、渡す情報を整えれば直ります(コンテキストエンジニアリング)。いちばん多く、いちばん直しやすい原因です。
指示が曖昧だった——出力の形式や優先順位が伝わっていない。指示の書き方で直ります。
そもそも判断が難しい——人が見ても意見が割れる事例。これはAIの課題ではありません。この種類が多いなら、その業務は自動化ではなく、人の判断を助ける形に置き直します。
材料に答えがない——文書化されていない知識が要る。書き出す作業が先に要ります。
この四つに仕分けられれば、次にやることが決まります。仕分けずに「精度が低い」で止めると、モデルを変える話に流れがちですが、そこが原因であることは多くありません。
運用が始まってからも測る
導入時に確かめて終わり、にしないでください。ずれは、あとから静かに入ってきます。
社内の様式が変わった。扱う商材が増えた。参照している資料が更新された。モデルが新しくなった。どれも、出力の傾向を変えます。しかも、エラーは出ません。
現実的に続くのは、この程度の仕組みです。
- 検証に使った事例を、そのまま残しておく
- 月に一度、同じ事例を流して結果を見る
- 前回と違う結果になったものだけを読む
全件を毎回読む必要はありません。前と変わったものだけを見れば、ずれは捕まえられます。
そして、この記録は投資判断の材料にもなります。効果が出ているのかを社内で説明するとき、感触ではなく同じ物差しで測った推移があると、話が早く進みます。
顧問先によく聞かれること
- 何件くらいで試せば判断できますか。
- 業務によりますが、まず数十件を丁寧に見るところから始めています。件数を増やすより、外したものを一件ずつ読んで原因を分けるほうが、次の打ち手につながります。全件を機械的に採点するのは、直す方向が決まってからで間に合います。
- 現場が「使える」と言っているなら、それで十分ではありませんか。
- 最初の判断としては有効です。ただ、感触は慣れとともに甘くなります。数か月後に「そういえば最近ずれている」と気づく形にならないよう、同じ物差しで定期的に測る形を残しておくことをおすすめしています。
出典(一次情報)
- AI事業者ガイドライン(本編・別添・チェックリスト) 総務省 AIネットワーク社会推進会議
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。