評価データセットとは——AIを測る物差しを、社内で作る
AIの出力を測るために、事例と「こうあってほしい答え」を組にして用意したもの。感触ではなく同じ物差しで比べるための土台になります。
AIを導入するかどうかを社内で議論すると、「精度はどのくらいですか」と必ず聞かれます。
答えるには、測る物差しが要ります。その物差しにあたるのが、評価データセットです。
事例と、こうあってほしい答え
やることは単純です。実際の業務から事例を集め、それぞれに「こうあってほしい答え」を人が書いておく。それだけです。
順番が要点で、AIに出させてから採点すると、出力に引きずられます。人が先に答えを書いておくと、この引きずりが起きません。
過去に実際に処理した案件を持ってくるのが、いちばん早い作り方です。当時の担当者が出した答えが残っているので、それを正解として使えます。ゼロから架空の事例を考えるより、現場の実態に合ったものが集まります。
部活の現場でいうと
うまくなったかどうかは、タイムで分かります。
ただし、条件を揃えたときだけです。同じ距離、同じ形、同じ計り方。 追い越しのある練習中に測ったタイムと、スタート台から飛んだタイムを並べても、速くなったのか条件が違うのか判別できません。だから、月に一度は同じ条件で計時会をやります。
評価データセットは、この計時会にあたります。同じ事例を、同じ答えと突き合わせる。感触ではなく、動かない基準で測る。
そして、途中で基準を替えないこと。事例を残す場所を決めて、モデルが変わっても様式が変わっても同じものを流す。そこで結果が変われば、変わったのは向こうだと分かります。
何件、誰が
件数。数十件から始めるのが現実的です。件数を増やすより、外れた事例を一件ずつ読んで原因を分けるほうが、次の打ち手につながります。全件を機械的に採点するのは、直す方向が決まってからで間に合います。
選ぶときは、簡単なものばかりにしないでください。楽な事例だけで測ると、良い数字が出て、運用で外します。集めるのは三種類です。
- よくある事例(件数として多いもの)
- 判断に迷う事例(担当者が一度止まるもの)
- めったに来ないが外せない事例(例外処理、特殊な取引先)
誰が書くか。その業務を実際にやっている担当者です。情報システム部門でも、外部の業者でもありません。何が正解かを知っているのは現場だけで、ここを外注すると物差し自体がずれます。
正解が一つに決まらないとき
要約や文案づくりでは、唯一の正解がありません。この場合は、正解の代わりに外してはいけない条件を書きます。
- 決定事項と担当者が入っていること
- 金額に触れていないこと
- 社外の固有名詞を出していないこと
- 三百字以内に収まっていること
条件の形なら、人が違っても判定が揃います。「良い文章かどうか」を採点しようとすると人によってばらつきますが、条件を満たすかどうかなら揃います。
そのうえで、手直しの量を三段階で記録します。そのまま出せた/少し直した/書き直した。この三段階なら、比較できる形になります。
作った後が本番
一度作って終わりにすると、半年で使われなくなります。続く形にするには、二つだけ決めておきます。
残す場所。事例と正解を、業務の資料と同じ場所に置きます。個人のファイルに置くと、担当者が変わった時点で消えます。
流す頻度。月に一度、同じ事例を流して、前回と違う結果になったものだけを読みます。全件を毎回読む必要はありません。モデルの更新、社内様式の変更、参照資料の差し替え——どれも静かに出力を変えるので、変化点だけを捕まえる形にしておきます。
この記録は、社内説明の材料にもなります。効果が出ているかを問われたとき、感触ではなく同じ物差しで測った推移を出せると、話が早く進みます。使い方の全体はAIの精度検証にまとめています。
顧問先によく聞かれること
- 正解が一つに決まらない仕事は、どう測りますか。
- 唯一の正解を決めずに、外してはいけない条件を書きます。「この項目が入っていること」「この情報に触れていないこと」。条件を満たすかどうかなら、人が違っても判定が揃います。文案づくりや要約は、この形になります。
- 作るのに、どのくらい手間がかかりますか。
- 数十件なら、担当者が半日から一日で作れる規模です。ゼロから考えるのではなく、過去に実際に処理した案件をそのまま持ってくるのが早道です。当時の答えが、そのまま正解として使えます。
出典(一次情報)
- AI事業者ガイドライン(本編・別添・チェックリスト) 総務省 AIネットワーク社会推進会議
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。