マルチエージェントとは——AIを何体も動かす前に確かめること
役割を分けた複数のAIを分担・連携させる構成。一体で抱えきれない仕事を分けられる一方、体数が増えるほど確認と費用も増えます。
AIエージェントを一体動かしてみると、次の話が出てきます。役割を分けて何体も動かせないか、と。
技術としてはできます。ただ、増やせば速くなるとは限らない、というのが実際のところです。
役割を分けて、渡していく
マルチエージェントは、役割の違うAIを分担させる構成です。
たとえば社内向けの調査レポートを作る場合。調べる役、要点をまとめる役、体裁を整える役、内容を点検する役。それぞれに専用の指示と参照先を持たせ、順に渡していきます。
一体にすべてを任せるより、各役の指示が短く明確になります。参照する資料も役ごとに絞れるので、コンテキストウィンドウに余裕が出ます。点検役を別に立てると、書いた本人とは別の目で見るぶん、見落としが減ります。
会社の部署分けと同じ発想です。人数が増えたときに分業したほうが速くなるのと、理屈は同じです。
部活の現場でいうと
メドレーリレーは、四人で泳ぎます。
一人で四種目を泳ぐより、得意な形を分けたほうが速い。ここまでは分かりやすい話です。ところが分けた瞬間、新しい仕事が生まれます。引き継ぎです。
早く飛べばフライング、遅ければタイムを捨てる。しかも、この受け渡しは個人の泳力とは別の技術で、練習しないと身につきません。四人が全員速いのに、リレーで負けるチームがあるのはこれです。
AIを何体も動かす構成でも、同じことが起きます。役を分けたぶん、渡す形と順番を決める仕事が増える。
そして、分けるのは一人で抱えきれなくなってからです。まず一体でやってみて、抱えきれないと分かった部分だけ切り出す。この順番が結局いちばん早く回ります。
増やすと、こうなる
分業には、人の組織と同じ課題も付いてきます。
伝言のたびに情報が落ちる。前の役が渡した内容から、次の役が読み取れなかった部分は、そこで消えます。人の引き継ぎと同じで、渡す形を決めておかないと少しずつ欠けます。
どこで狂ったか追えない。最終出力がおかしいとき、どの役の判断が原因かを特定する必要があります。記録が残っていない構成だと、全部を見直すことになります。
時間と費用が積み上がる。一体が動くたびに処理が発生します。四体で回せば、単純計算で四回ぶんです。速くなるどころか、待ち時間が伸びる構成も珍しくありません。
確認の場所が増える。役が増えるほど、人が見るべき場所も増えます。ここを設計せずに体数だけ増やすと、運用が回らなくなります。
順番としては、後ろ
現場で勧めている進め方は、この順です。
- 一体で試す。指示と渡す情報を整えて、どこまでできるかを見る
- 抱えきれない部分を特定する。指示が長くなりすぎる、参照する資料が多すぎる、判断の種類が違いすぎる
- その部分だけ切り出す。二体にする。三体にはしない
- 記録を残す形にする。どの役が何を見て何を渡したか
3で止めておくのが、実務では収まりのいいところです。役を細かく分けた構成図は見栄えがしますが、動かし始めると、どこで詰まったのか分からない仕組みになります。
そして、前提は変わりません。役を分けても、渡す情報が整っていなければ結果は出ません。コンテキストエンジニアリングが先で、分業はその上に載ります。
人のゲートは一か所
取り消せない操作の直前に、人が押す工程を一つ置きます。途中の受け渡しをすべて人が見る形にすると、分業した意味が消えます。
「AIが何体で動いているか」より、「取り消せない操作の手前に人がいるか」。判断で見るのは、そちらです。
顧問先によく聞かれること
- 何体くらいで組むものですか。
- 少ないほうが安定します。まず一体で試して、抱えきれないと分かった部分だけ切り出す進め方をおすすめしています。最初から役割を細かく分けた構成は、どこで詰まったのかが追えなくなりがちです。
- 人が確認する工程は、どこに置きますか。
- 外に出るものの直前です。途中の受け渡しをすべて人が見ると、分業の意味がなくなります。取り消せない操作(送信・発注・公開)の手前に一か所だけ人のゲートを置く形が、実務では続きます。
出典(一次情報)
- AI事業者ガイドライン(本編・別添・チェックリスト) 総務省 AIネットワーク社会推進会議
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。