AI事業者ガイドラインとは——自社がどの立場かで、見る場所が変わる
総務省と経済産業省が示した、AIに関わる事業者向けの指針。開発者・提供者・利用者の三つの立場ごとに、留意することが整理されています。
取引先から「AIの利用体制について確認したい」と聞かれることが出てきました。大企業との取引がある会社では、調達の質問票にAIの項目が入り始めています。
そのときに参照されるのが、国が示したガイドラインです。
三つの立場に分けて整理されている
AI事業者ガイドラインは、総務省と経済産業省が示した指針です。AIに関わる事業者を、大きく三つの立場に分けて整理しているのが特徴です。
- 開発する立場——モデルやシステムそのものを作る
- 提供する立場——作られたものを組み込んで、サービスとして提供する
- 利用する立場——業務でAIを使う
多くの中小企業は、三つ目にあたります。自社でモデルを作らず、既存のサービスを業務で使う立場です。この場合、見る範囲はかなり絞れます。
自社が二つ目に当たるかどうかは、確認しておく価値があります。AIを組み込んだサービスを顧客に提供している、あるいは顧客向けの窓口にAIを使っているなら、提供する立場としての留意点も関わってきます。
部活の現場でいうと
大会の要項が配られたとき、全部を読み込む人はあまりいません。
読むのは、自分の欄です。選手が守ること、引率が担うこと、役員が確認すること。同じ冊子でも、立場によって見る場所が違う。ここを取り違えて全部を気にすると、肝心の招集時刻を見落とします。
AI事業者ガイドラインも、まったく同じ構えで書かれています。開発する側・提供する側・利用する側で、見る場所が分かれている。
多くの中小企業は、利用する側です。自分の欄だけを読んで、自社の一枚に落とす。 大会要項の読み方と同じで、それで実務は足ります。
そして、要項は毎年改定されます。ガイドラインも版が重なっているので、半期に一度、自社のルールを見直すときに最新版の該当箇所だけ確かめる形が続きます。
罰則ではなく、整理された観点
このガイドラインには、それ自体としての罰則はありません。
ただし、既存の法令は当然に適用されます。個人情報の扱いは個人情報保護法(個人情報とAI)、生成物の扱いは著作権法(著作権とAI生成物)。ガイドラインは、それらの外側で「事業者として何に気をつけるか」を整理したものだと捉えると、位置づけが分かります。
取り上げられている観点は、人間中心であること、安全性、公平性、透明性、説明責任といったものです。抽象度が高いので、そのままでは自社の行動になりません。
実務に落とすときの読み替え
利用する立場として、自社の行動に落とすなら、この四つに読み替えると扱いやすくなります。
① 誰が責任を持つか決める。AIの出力をそのまま業務に使ったとき、その結果の責任は使った側にあります。承認者を決めておくことが、そのまま体制の説明にもなります。
② 判断を任せきりにしない。人の権利や待遇に関わる判断——採用、評価、与信——をAIの出力だけで決めない。ここは特に注意が向けられている領域です。
③ 使っていることを隠さない。顧客に出す文章や応対にAIを使っている場合、それを説明できる状態にしておく。聞かれて答えられないことが、いちばん信用を損ないます。
④ 記録を残す。何にどう使い、どう確認したか。取引先からの質問票に答えられるかどうかは、記録があるかどうかで決まります。
四つとも、社内AI利用ルールを一枚作れば、大半が満たせる内容です。ガイドラインのために別の文書を作る必要はありません。
取引先の質問票に答えるとき
実務でこのガイドラインが顔を出すのは、たいてい取引先からの確認です。調達の質問票や、情報セキュリティの点検票に項目が加わり始めています。
聞かれる内容は、そう複雑ではありません。社内に利用の取り決めがあるか。責任者が決まっているか。顧客から預かった情報の扱いを定めているか。人の待遇に関わる判断に使っていないか。
いずれも、一枚の取り決めがあれば答えられます。逆に、取り決めが無い状態で聞かれると、その場で作ることになり、実態と食い違ったまま提出することになります。取引先の規模が大きいほど、この確認は先に来ます。作っておくと、あとで慌てずに済みます。
更新される前提で見る
このガイドラインは、公表後も改定が重ねられています。国際的な議論の動きも速く、内容は変わっていきます。
実務としては、全文を追い続けるより、自社のルールを半期に一度見直すときに、そのタイミングで最新版の該当箇所を確認する形が続きます。最新の内容は、必ず所管省庁の公式サイトでご確認ください。
なお、ここに書いたのは公開時点での一般的な整理です。個別の事案について判断が要る場合は、顧問弁護士など専門家にご確認ください。
顧問先によく聞かれること
- 従わないと罰則がありますか。
- このガイドライン自体に罰則はありません。ただ、個人情報保護法や著作権法など、既存の法令は当然に適用されます。ガイドラインは「法令の外側で、事業者として何に気をつけるか」を整理したものだと捉えると位置づけが分かります。
- 中小企業でも対応が要りますか。
- 規模で免除される性質のものではありません。ただ、自社がAIを使う立場だけであれば、見る範囲はかなり絞れます。全文に目を通すより、利用者としての留意点だけを読んで、自社のルールに落とすほうが実務的です。
出典(一次情報)
- AI事業者ガイドライン(本編・別添・チェックリスト) 総務省 AIネットワーク社会推進会議
- AI事業者ガイドライン検討会(各版の本文PDF) 経済産業省
- AI事業者ガイドライン(第1.2版・本文と別添) 経済産業省
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。