AIをオンプレで動かすか、クラウドで使うか——判断が分かれる境目
AIを自社の設備で動かすのがオンプレミス、事業者のサービスとして使うのがクラウド。持ち出せないデータがあるかどうかが、判断の分かれ目になります。
「機密情報を扱うので、社内で完結させたい」。製造業や医療、士業の会社から、この要望をよく受けます。
技術としては選べます。判断が分かれる境目は、思われているより限られています。
二つの置き方
クラウド。事業者が用意した環境を、契約して使います。設備も、更新も、性能の確保も事業者側です。最新のモデルが使え、始めるのも早い。使った量に応じた費用がかかります(AI利用料の考え方)。
オンプレミス。自社の設備でモデルを動かします。データが社外へ出ません。設備の購入と、運用する体制が要ります。動かせるモデルは、設備の性能に見合った範囲に限られます。
中間の形もあります。クラウド上に自社専用の区画を確保する構成で、社外へ出ない条件を契約で担保しながら、設備は持たない置き方です。実務では、この選択肢が収まりのいい場面が多くあります。
習い事の現場でいうと
家で親が教えるか、教室に預けるか。何度も通る選択です。
家で見れば、いつでもできて、進み方も全部把握できます。ただ、家に置いたから伸びるとは限りません。続ける仕組みが無ければ同じです。 週に何回やるか決めたか、道具を出しっぱなしにできる場所があるか。効いているのは場所ではなく、決めごとのほうです。
預ける側も同じで、良い教室は出欠が記録され、進度が見える形になっています。
「社内に置けば安全」と言われたとき、私が確かめるのはここです。置き場所ではなく、鍵を誰が持っているか、記録が残るか。
順番としては、まず預けて試す。自宅で全部を抱えるのは、抱えないと回らないと分かってからです。最初に道具を一式そろえると、合わなかったときに戻せません。
社内に置けば安全、ではない
いちばん誤解が多いところです。
社内に置くと、外部への経路が減ります。ただ、それ以外の経路は残ります。誰がどのデータにアクセスできるか、権限の設定が甘ければ、社内から漏れます。更新を怠れば、脆弱性が残ります。監視の体制がなければ、何が起きたかも分かりません。
クラウド事業者は、その部分を専門に担っています。自社で同じ水準を維持できるかどうかは、体制の話です。置き場所を変えることと、守りを固めることは別だと分けて考えてください。
守りの中心は、置き場所ではなく、誰が何にアクセスできるかの設計にあります(個人情報とAI)。
判断の分かれ目
オンプレを検討する理由として、実際に成立するのは次のような場合です。
- 契約や法令で、データの持ち出しが明確に禁じられている
- 顧客との取り決めで、外部サービスへの入力が制限されている
- 業界の規制で、データの所在を国内・自社内に限る必要がある
- 通信が届かない環境で動かす必要がある
逆に、「なんとなく不安だから」で選ぶと、設備と体制の負担だけが残ります。まず、持ち出せないデータが実際にあるのかを確かめてください。ある場合でも、その業務だけをオンプレにして、他はクラウドで進める分け方ができます。
順番としては、クラウドから
中小企業に勧めている進め方は、こうです。
- クラウドで小さく試す。どの業務に効くのか、何を渡せば精度が出るのかを掴む
- 持ち出せないデータを特定する。全部ではなく、実際に制限があるものだけ
- その業務だけ、置き方を考える。専用区画で足りるのか、社内設備が要るのか
最初からオンプレで組むと、設備を買った後で「思ったほど使わなかった」となったときに戻せません。クラウドなら、合わなければやめられます。
そして、どちらを選んでも、渡す情報を整える作業は変わりません(コンテキストエンジニアリング)。置き場所の議論に時間をかけすぎて、そちらが進まないほうが、結果として遠回りになります。
顧問先によく聞かれること
- 社内に置けば、情報漏えいの心配はなくなりますか。
- なくなりません。持ち出しの経路が変わるだけで、社内からの持ち出しや、権限設定の不備は残ります。むしろ、更新や監視を自社で担うぶん、体制が伴わないと守りが薄くなることもあります。置き場所ではなく、誰が何にアクセスできるかで守るほうが確実です。
- 小さく試すには、どちらから始めるべきですか。
- クラウドからです。設備も体制も要らず、合わなければやめられます。オンプレは、どの業務に効くかが定まってから検討する順番のほうが、無駄が出ません。
出典(一次情報)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日) 個人情報保護委員会
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。