PoCとは——「やってみた」で終わらせないための条件
本格導入の前に、小さく試して効果と課題を確かめる工程。何をもって次へ進むかを先に決めていないと、成果が出ても止まります。
「実証実験まではやったんですが、そこから進んでいません」
AI導入の相談で、これに近い話をよく聞きます。成果が出なかったから止まったわけではありません。むしろ、そこそこ良い結果が出ていることのほうが多いくらいです。
止まる理由は、たいてい始め方にあります。
何をもって次へ進むかを、先に決めていない
やってみて、それなりに動いた。現場からも悪くない反応がある。それでも、本格導入の稟議が通らない。
「そこそこ良い」は、判断材料になりません。決裁する側が知りたいのは、投じた費用に対して何が返るかです。感触では、その答えが出せません。
始める前に決めておくと、この行き止まりを避けられます。
① 何を測るか。処理にかかっていた時間、手直しの量、対応の待ち時間。業務に元から存在する数字を選びます。新しく測り始める指標にすると、比べる相手がありません。
② 今の値を先に記録する。始めてからでは、元の状態が分かりません。着手前の一週間ぶんだけでも記録しておくと、比較ができます。
③ どうなったら次へ進むか。この値がこうなったら本格導入する、という線を先に引きます。後から決めると、都合のよい解釈が入ります。
④ どうなったら止めるか。ここを決めていない検証は、終わりません。だらだら続いて、担当者の異動とともに消えます。
四つ目がいちばん抜けます。止める条件を先に書いておくのは、諦める準備ではなく、判断を先送りしない仕掛けです。
習い事の現場でいうと
体験教室から入ります。
行ってみて、合うか見る。うちも四人ぶん、ずいぶん連れて行きました。そして、合わないと分かるのも成果です。 通い始めてから合わないと分かるより、はるかに安く済んでいます。
ただ、体験の前に必ず決めることがあります。いつまでに決めるか。 そこを決めずに「もう少し様子を見よう」を続けると、決めないまま半年が過ぎます。しかも本人は、行きたくない気持ちを抱えたまま通うことになる。
PoCも同じ性質のものです。効果が出れば進める。出なければ、その業務にAIは要らないと分かる。どちらも、本格導入の前に分かったという意味では同じ価値があります。
決めておくのは、期限と、やめる条件。これを先に書くから、体験が体験として終わります。
止まる典型
現場で見てきた止まり方には、型があります。
測っていない。「便利だった」で終わり、決裁の材料が無い。上の四つで防げます。
現場が入っていない。情報システム部門だけで試し、実際に使う部署が関わっていない。本格導入の段になって「そんな使い方はしない」と分かる。
難しい業務から始めた。いちばん課題の大きい業務を選び、AI以外の要因も絡んで、何が効いたのか分からなくなる。
そのまま本番にできない作りで試した。手作業で資料を用意して回した検証は、件数が増えると回りません。検証の段階から、本番と同じ渡し方で試しておく必要があります。
担当者一人で抱えた。その人が異動した瞬間に止まります。始めた時点で、引き継ぐ相手を決めておいてください。
本番へ渡すときに要るもの
検証が終わった時点で、次の三つが残っていると、本格導入がそのまま続きます。
- 測った記録——着手前と後。判断の材料であり、社内説明の材料でもある
- 渡した情報一式——判断基準、参照した資料、うまくいった指示(コンテキストエンジニアリング)
- 外した事例と、その原因——次に直すところが、そのまま見える(評価データセット)
三つとも、検証の過程で自然に生まれるものです。残す場所を決めておくかどうかだけの違いで、後から作り直すことになるか、そのまま使えるかが分かれます。
「要らない」も成果
検証の結果、その業務にAIは要らないと分かることがあります。関数で足りた、手順を変えるだけで済んだ、そもそも件数が少なかった。
これは止まったのではなく、判断が付いたということです。そのまま本格導入していたときの費用と手間が、まるごと浮いています。
全部をAIにする必要はありません。効かないと分かる可能性を最初から見込みに入れておくと、検証そのものが軽くなり、着手も早くなります。
顧問先によく聞かれること
- どのくらいの期間で区切るべきですか。
- 数週間から二か月程度で区切るのが現実的です。長くすると、判断が先送りされ、担当者の異動や優先順位の変化で自然消滅します。短く区切って、続けるか止めるかを一度決めるほうが前に進みます。
- 効果が出なかった場合、無駄になりますか。
- 「この業務にはAIは要らない」と分かったことは成果です。そのまま本格導入していたときの費用と手間が浮いています。検証の結果として不要と分かる可能性を、最初から見込みに入れておいてください。
出典(一次情報)
- AI事業者ガイドライン(本編・別添・チェックリスト) 総務省 AIネットワーク社会推進会議
解釈を挟まない一次情報だけを挙げています。仕様・条件・制度は改定されるため、 判断に使う際は必ずリンク先の最新版をご確認ください。